16歳少女の怒りの演説は環境対策を進めるか?


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国連気候行動サミットでの、スウェーデンの高校生、グレタ・トゥンベリさんの演説が話題です。相当強い言葉で話していて、何気なくツイッターで流れてきたのを見てびっくりしてしまいました。




ユーチューブを設定すると英字幕が出る動画↓です。雰囲気がかなり伝わるかと思います。
https://www.youtube.com/watch?v=TMrtLsQbaok

日本のニュースの動画では、今のところ、これ↓
https://www.youtube.com/watch?v=LP6xQpHFfH8
が雰囲気が伝わるかと。

要するに物凄く強い言葉で、今ちゃんと気候変動に対策を講じようとしていないことについて怒ってるわけですが、これを見てネット上では、「最高!みなのものコレを聞け!」みたいな層と、凄い強烈な感情的反発を覚える層と、かなり二極化してる印象を受けます。

私は・・・最近はかなり気候変動深刻だなあと感じていて、なにか自分ができることはなんだろうかと考えている人間ではあるものの、「how dare you」とか言う感じのテイストがあまり好きじゃないので、「この子に感情的な反発を覚える層が、物凄くたくさんいる」ことも体感として理解できます。

そういう「反感」に対して、「16歳の女の子がこれほど真剣になっているのに、お前はそれを受け止めないのか!!!ほんとカスだな!!!」的な怒りをぶつけるのは逆効果なんじゃないでしょうか。どうも非常にアンフェアな、議論の内容ではなくそれ言ってる人のキャラクターで反論を封殺されている気持ちになる。

この演説に「そうだ!!」ってなる人は、もともと気候変動に熱意を持ってる人が多いでしょうし、もし人間社会を本当に動かしたいのなら、むしろこのタイプの演説に反感を覚える層まで浸透するやり方を考えなくちゃいけないはずでは?という思いを私はどうしても抱いてしまいます。

まあしかし、ここまで攻撃的になっても盛り上がることで、社会にインパクトを与えることが必要なんだ!!という意見も、理解はできます。

で、じゃあどうしたらいいのか?

これは今度出す私の新刊の中の図なんですが、

(クリックで拡大します)

社会問題っていうのは、解決に2つのフェーズがあるんですよね。たとえ話的に「滑走路段階」と「飛行段階」と呼んでいるんですが。

ちゃんとその問題が「ある」っていうことを社会に周知するまでは(図の左列)グレタさんのような演説が必要なこともあるとは思います。なんとなく「色んな人の事情」とか考えまくってたら黙殺されてしまう・・・という懸念は理解できる。

しかし、それを、だんだんとこの「飛行段階」のフェーズに入ると、「受け渡し」て行くことが必要なんですよね。なぜなら、実行段階に入れば、「グレタさんの演説が嫌いな層」にまで浸透しないと実現しないからです。

私は個人的に、ああいう演説は好きになれないタイプですが、気候変動の問題はたしかにまだ「滑走路段階」かもしれないから、ああいう演説が必要なのは理解できる。

ただ、これをどうやったら「右列」に移行していけるか・・・については、グレタさんみたいな演説が好きな人も嫌いな人も考えなくちゃいけないのではないかと思います。

どういうところに、グレタさんの話に問題があるかというと、たとえば、小泉進次郎さんがちゃんと応えられなかったことで問題になっている日本の石炭火力増設問題ですが・・・

経産省の資料にこういうのがあります。

なぜ、日本は石炭火力発電の活用をつづけているのか?~2030年度のエネルギーミックスとCO2削減を達成するための取り組み

端的にまとめると、
・「グリーン電源」に高価なものしかなければ途上国には導入できないので、高効率な石炭火力の研究をすることは人類全体でみて「エコ」になりえる

的な話をしています。

火力を新設するということは、古い非効率な火力を廃棄するということであり、またそれをベースロードに期待すれば再生可能エネルギーの普及も目指すことができる・・・・という構造になっているんですね。そしてその技術に集中投資することで、他にはない圧倒的な高効率を実現していたりする。

日本で商用化されている最高効率の技術(USC:超々臨界圧)を、中国やインドといったアジアの国々と米国の石炭火力に適用すると、CO2削減効果は約12億トン(11.8億トン)にのぼるという試算があります。これは、日本全体のCO2排出量(約13億トン)に匹敵する規模です。


・・・・だ、そうです。

つまり、ある種の左翼主義者から見ると「日本政府」というものはありとあらゆる面で悪の権化みたいな印象になりがちなんですが、日本政府は日本政府なりに真剣に気候変動への対処を考えてやっているわけです。

フクシマの事故ゆえに原発に頼りづらくなっている現状の中で、出来る限り再生可能エネルギーに移行しつつ、それでも安定的なベースロードを確保するには・・・と考えて、なんとかたどり着いた苦肉の策なわけです。

そして、人類全体で見ると、グリーン電源が高価なものしかない状況が続くよりも、高効率な石炭火力の研究をすること自体がトータルでエコになる可能性は十分にある。さっきの経産省のリンク、今の「小泉進次郎問題」でみんなセクシーって英語がどうだこうだとか盛り上がってるけど、そんなことよりもっと考えなくちゃいけない情報が満載なのでぜひ読んでみてください。

これは電動車とハイブリッドの間にもある関係なんですが、欧米人はすぐ「もうガソリン車やめる」「電動車だけを優遇しハイブリッドも枠から外す」みたいな話になりますが、それが結局「金持ちのオモチャ」に終わってしまうと、人類70億人の大半は「全然エコじゃない」ことを続けてしまうわけで、余計に問題が大きくなるわけです。

そこで、日本がいわゆる「水道哲学by松下幸之助」的なソリューションを模索することは、それこそ「多様性からの違いを活かした連帯」なんですよね。

・・・にも関わらず、「石炭火力はセクシーじゃないぞ!」とかデモされたり、「how dare you!!!(よくもそんなことができたなキサマ!)」みたいなこと言われたら、そりゃ反感も持ちますよ。そうですよね?

まあ、もちろん、小泉進次郎さんが、あそこでちゃんと「人類トータルで見た時の高効率石炭火力技術を開発するプレイヤーがいることの意義」について堂々と語ってくれていたらこんな問題は起きなかったとも言えますが・・・

なんにせよ、さっきの図で「飛行段階」に入ってくると、「how dare you!!」型に「敵全否定」だと話が進まなくなるんですよね。だから、「滑走路段階」から、どうやって「飛行段階」へと移行できるかについて、「グレタさんについて反感持つなんてなんてお前はゲスなヤツなんだ!!!」みたいなことを言う前に、私たちリベラル側がちゃんとその「受け渡し」プロセスについて真剣に考える必要があるわけです。

また新刊の図からですが、
(クリックで拡大します)


世の中には、「滑走路段階」において必要な「新幹線言論」ってのも確かにあるんですが、一方で実際にそれに取り組み始める「飛行段階」になると、「山手線言論」みたいなのが必要になってくるわけじゃないですか。

大阪から新宿行くって言った時に、「とにかく今すぐ東へ行くぞ!できるだけはやく東にいければそれでいいぞ!」みたいなのが大阪にいる時には必要だけど、もう品川までついちゃったら、「ここからは山手線で8駅目で降りなきゃだよ。7駅目でも9駅目でもダメだよ」ってことをちゃんと扱う必要が出てくる。

この2つは、明らかに仲悪いですけど、でも本来は、「受け渡し」がちゃんと行われないと、描いた理想を実行に移せないわけですよね。

私は経営コンサルティングのかたわら、「文通を通じて個人の人生の戦略を考える」みたいな仕事もしてるんですが、こないだまで、某巨大野党の国会議員さんがクライアントだったことがあるんですよね。

脱原発について彼が党でまとめたペーパーは、すごくここでいう「山手線言論」になっていて、微に入り細に入り色んな可能性が検討されていて、「こういうのちゃんとあるんじゃん!そうそう、こういう話を進めていかなくちゃ脱原発なんてできないよ!」と思ったんですが、そういうのは「妥協だ!」とか言って党の中で潰され、マスコミでも扱われず・・・・結局その党は解体されて延々と1割ぐらいの支持率を複数政党で争い続けているのは皆さんの知るところです。

というかリベラルなマスコミの責務は彼が作ったそのペーパーみたいなものをちゃんと引き上げることであるはずなんですが、それをせずに変な陰謀論を振り回したり「敵」を凄い下に見て冷笑したり罵倒したりしかしてない感じがするところが、今の時代の「リベラル冬の時代」的な苦境の元凶であるように思います。

「新幹線言論」のタイプの人は、「山手線言論」をやる人が凄い「敵」に見えるんですが、しかしさっきの「水道哲学」的な話をするなら、「彼らと繋がらない限り、気候変動対策なんて無理ですよ」みたいな話はどうしてもあるんですよね。

そして、この「日本人が持っている水道哲学的なこだわり」は、グレタさん風の急進主義と徹底的に相性が悪いので、本来日本人が善意で真剣にやっていることまで、一緒くたに「how dare you!!」みたいなことを言われてしまいがちなすれ違いが現代世界では常にあります。それが結果として、ある種の排外主義的な気分に繋がってしまっている。

日本の排外主義的気分をなんとかしたいなら、リベラル的な素養のある人が、
    「日本人の水道哲学が持っていてグレタさんが見落としていること」
について、ちゃんと「言語化」するプロセスを代行してやることが、唯一の解決策であるとすら私は考えています。

もちろん、小泉進次郎センセイがちゃんと高効率石炭火力の必要性について堂々と語ってくれたらそれで良かったんですが、しかし「世界中がグレタさん風の熱情」で燃え上がってる時にちゃんとそういう「水道哲学」を語れるかどうか・・・・は、やはり「みんなでちゃんと押し上げてあげる」ぐらいのことはしないと無理だと思います。

個人的には、英語でもちゃんと”普段と同じテイスト”で話せちゃう小泉進次郎センセイってその点だけは結構凄いなって思ったぐらいなんで・・・・だいたいネイティブじゃない人の英語に「英語警察」みたいなことやるのはリベラルな理想からしてご法度なはずですよね?彼が苦手な部分があるなら、バカにしてないでちゃんと周りが補ってブリーフィングしてあげて、あとはあのテイストでちゃんと語ってくれたら問題ないわけで、そのへんはあらゆる人の長所を活かして短所を補って生きていくべきだと思いませんか?



そういう、日本人の「水道哲学」にはあって、グレタさん一派が見落としているもの・・・・のところから、一貫して世界をどうしたら「理想」を実現していけるのか・・・について書いた私の5年ぶりの新刊、

「みんなで豊かになる社会」はどうすれば実現するのか?

が、来年1月にディスカバー21社から出ます。長く時間をかけただけがあって、本当に自分の「すべて」を出し切れた本になったと思っています。

現在、noteで先行公開しており、無料部分だけでもかなり概要がつかめるようになっていますので、この記事に共感された方はその無料部分だけでもお読みいただければと思っています。

こちらから。

同時に、その話をさらに推し進めたところから、日韓関係をはじめとする東アジアの未来の平和はこの視点からしかありえない・・・と私は考えている提言については、以下をどうぞ。

21世紀の東アジアの平和のためのメタ正義的解決法について




それではまた、次の記事でお会いしましょう。

感想など、聞かせていただければと思います。私のウェブサイトのメール投稿フォームからか、私のツイッターに話しかけていただければと。


倉本圭造
経済思想家・経営コンサルタント
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