年末年始にすぐ読めて中国の今が物凄くわかる本の紹介
歴史的「合意」に湧く日韓関係ですが、その背後でより大きな問題になっているのが中国ですよね。
ついこないだ日本を抜いて世界二位になったかと思えば、今や名目GDPでは日本の二倍を超える規模になり、しかし色んな意味で「お騒がせ」な存在であることは変わらず、東アジアの局地的な問題ではすまない全世界的に巨大な問題になっている。
たまたま今私が書いている本でも、全然中国関係の本じゃないのに、「中国のことについてのある程度の見通し」を持っておかないと書けないな・・・と思う部分があったので、色んな関係本をまとめて読むことになりました。
その中で、軽く読める本なのに、読む前と後とで全然違う「中国がわかった感」が感じられた本があったので、今回のブログはそれを紹介しつつ、中国は今後どうなりそうか?、そして日本及び諸外国はどう彼らと関わっていくべきか?について考えてみたいと思っています。
以下目次です。
1・中国を見る3つの視点の”3つめ”が案外大事
2・一枚岩でなくなった中国を、適切に「導く」関係構築を
3・「意識高くない系」の他人とのつきあい方について
では1つずつ見ていきます。
1・中国を見る3つの視点の”3つめ”が案外大事
いいからはやくその「”凄いわかった感”が得られる本」を紹介しろよ・・・というわけで、その本はこれです↓
権力闘争がわかれば中国がわかる ―反日も反腐敗も権力者の策謀: 福島 香織
これ、むっちゃ面白いし、でもなんか凄い「中国がわかった感」がありました。
この本は、香港で出ている「政治ゴシップ雑誌」を読むのがほとんどライフワークなんじゃないかという筆者が、中国共産党の権力争いの裏側について、色んな陰謀の現場を見てきたかのような筆致で書いてる本です。
でも、単なるゴシップに流れてる感じではなくて、中国の場合言論統制がキビシイので「こんな噂がネットに流れていて”検閲されずに残っているということ自体”が強烈なメッセージ」だったりするんですよね。
そういう意味で、「噂の真偽」が疑問な時はちゃんと疑問だと書きつつ、「そういう噂が流されているという現状」自体は情報として取り入れてそこから俯瞰的に読み解くみたいな感じで、しかも鄧小平(経済の改革開放を始めた人)以降の権力の移り変わりがかなり通史的に理解できるようになっていて、私の「見通し」は随分良くなりました。
権力者だけじゃなくて、権力者に群がる(まさにこのムラガルという表現がドンピシャな)中国の女性芸能人や、CCTV(中国の国営放送)の美人女性キャスターたちの愛憎劇まで、これまた見てきたかのように書いてて、それも凄いリアルで面白いです。
さて、ここまで本の説明をしてきて、俺は知的で硬派なデキルビジネスマンだぜ?そんな三流実話週刊誌みたいな切り口の本なんか、読めるかってんだよぉ〜と思ったアナタ!
正直私もそう思ってました。全然期待せずに、でもザザッと沢山中国関係の本を買った時に紛れ込んで買った感じで、読んだのも一番最後でした。
でもね、中国の場合、「この視点」を抜きにするのは良くないなって痛感したんですよ。
今回色々読んだ本の中で面白かったのをあげると、
橘玲の中国私論---世界投資見聞録: 橘玲
まずこれね。
経済評論家で国際投資が専門の橘玲氏が、中国のあっちこっちの「強引に開発されて廃棄されたゴーストタウン」を訪ね歩いて、実際に自分が普段やっているように投資するとしたらという前提で利回りを計算したりしながら、「なぜ中国では、日本のバブル期にもここまでにはならなかったゴーストタウンが次々出来てしまっているのか」について分析するという本です。
面白そうですね?面白かったです。「なぜ」の理由が知りたい人は読みましょう。中国の地方政府に関する制度的なインセンティブ構造の分析から、合理的なロジックだけで書いてあってなかなか読ませます。
そしてもう一個面白かったのはこの本です。
これは、米国政府にかなり近い立場の(時にスパイ活動的な関わりもしていた)、中国専門家であるピルズベリー氏が、彼が実際に関わった毛沢東時代の米中国交正常化交渉の知られていない裏側なんかを紹介しながら、「国」単位で見た時のアメリカと中国のツバ競り合いの歴史とこれからの展望について書いた本です。
この本は、今までかなり中国に対して宥和的な人が多かった「アメリカにおける中国専門家業界」において、はじめて「中国を警戒するべき」という論調を明確にしたという意味で大きな画期となった本であるようです。
「アンチ中国」な心理の人からするとある時期まで米国の弱腰が歯がゆい気持ちだった人もいるかと思いますが、ここ最近、南シナ海に軍艦を航行させたり、「いつまでも中国に甘い米国ではないぞ」という態度を急にアメリカは示すようになり、「なんか風向きが変わったなあ」という印象の人も多いだろうと思います。その流れの中にある「本」というわけですね。
その「風向きの変化」が、日米関係だけでなく、今回の日韓関係の改善、そして中国政府が日本との関係改善を模索しはじめたこと・・・とも無関係ではないはずです。
さて、
A 橘玲氏の本のような、「経済の視点」
B ピルズベリー氏の本のような、「国家の視点」
は、硬派な知的ビジネスマン的に手にとっても恥ずかしくない内容であるように思いますし、実際読んだら勉強になります。
おそらく、米国を知りたいなら「A 経済」を、日本を知りたいなら「B 国家」を注目すると良いのかもしれません。その国の「近代化度合い」のようなものによって何が一番大事かが変わってくるというような。
しかし、中国の場合は、「C」の「権力闘争」の視点が入ってこないと、「AとB」だけではちょっとわからないことが多いんじゃないかと、私は今回思いました。
それは、ほとんど期待してなかった「C」を扱った福島さんの本を読んでいると「AとB」の視点の時には謎のまま残っていた部分が物凄くクリアーに見えてきたからです。
例えば、「A 経済」の視点から分析を進めていって、中国経済ってのは現状どれくらいヤバイのか?それとも持ちこたえ得るのか?という理解を深めるのは大事なことです。
しかし、将来のある時点で、「中国共産党政府」が、どんな政策を持ち出してくるのか・・・は、その「純粋に経済の視点」からはブラックボックスのままです。
共産党にも色んな人がいますから、かなりグローバルな良識と地続きな感覚で、徐々にオープンな市場運営を取り入れていこうとする派閥もいれば、逆にバシバシに統制して外資を狙い撃ちにバッシングして、国策で輸出をして・・・という派閥もいます。
今「どっちの派閥」が強くて、もし将来経済が不調になった時に、「どっちの派閥」が前面に出てきそうか?というのは、かなり「経済」の先行きに影響を与えるでしょうが、「純粋に経済だけ」の問題からはなかなか読み解けません。「読み解く」ことができなければ、「働きかける」ことはもっとできないでしょう。
また、「B 国」だけの話で見ても同じなのですが、ピルズベリー氏の本が・・・というか、その「本自体の影響力で何かが変わる」というより、「そういう本が出て話題になりえる米中関係の潮目の変化」が先にあって、結果としてそういう「本」が出てくるわけですよね。
でも、なぜかなり中国に対して宥和的な態度が多かった米国政界が、急に中国に対して強腰になる論調が増えてきたのか?という肝心なところは、「なんか理由はよくわからないけど風向きが変わっちゃったね」ぐらいにしかわかりません。
これも、「C」の視点が入ってくると「なるほど!」っていうような理解ができたりするんですよ(このブログの後半で触れさせてもらいます)。
だからね、恥ずかしがらず(でもゴシップって、実は読んだら楽しいんですよ人間の本能的にね)に、「C」の視点の本を読んでみるといいんじゃないかと思います。
近代化した国では、「C」の領域は一応あるっちゃあるけど、面白おかしくネタにするほどの影響力は実際にはないことが多いように思います。俺はアイツが嫌いだしぶっちゃけ敵だけど、今これをやらなくちゃいけないってことはわかってるから協力してやる・・・のが近代化した国のあり方です。
しかし、中国ではこの「C」こそが最も重要です。・・・なぜなら権力闘争に敗れた権力者は場合によりますが生きていられないことも多いからです。文字通り生きるか死ぬか。そりゃ真剣にもなります。自分個人が殺されるだけじゃなくて、一族郎党が社会的に抹殺されることもあるようです。
いつの時代の話やねん!・・・と思いますが、21世紀の話です。しかも国際線で数時間飛べば行けちゃう国の話です。
だからこそ、
A 経済
B 国家
に
C 権力闘争
の視点を加えると、「中国がわかった感」が一気に感じられるようになってくるわけです。
では、この記事の後半では、福島さんの本の内容のちょっとした紹介と、さっき書いた
「なぜ米中関係において米国は最近強く出られるようになったのか?(それが日米関係・日韓関係・日中関係にも大きな影響を与えているわけですよね)」
について読み解くと同時に、今後日本含め国際社会は中国とどう付き合うべきかについて考えてみます。
2・一枚岩でなくなった中国を、適切に「導く」関係構築を
我々は中国で何があってもあんまり驚きませんし、中国人自身も「自分でネタにして笑う」ところがあります。何が爆発しても「またか」って感じですし、ワカメとして売っていたのが実はビニールだったり、コメだと思って半年流通してたのが紙だった など、我々の想像を何倍も超えてきてくれるエンターテイメント性を持っているところがあります。
福島さんの本を読んでいてまず驚くのは、中国の権力闘争の激しさです。なんというか、日本だったら関ヶ原の戦い前に徳川家康が色んな武将を東軍に引き入れようと画策しているシーン・・・みたいなのが、21世紀の現代なのに「常に」ある感じです。
汚職も桁違いで、日本だと数億円横領した官僚がいたら「凄い巨額」って感じですが、中国で権力者が捕まったら「数千億円から兆円単位」の資産があるのが当たり前で、一個の汚職で数百億円横領することも珍しくないようです。ある権力者に取り入るためにその権力者の娘さんの誕生日に、数億円入った口座に紐付いた銀聯カード(デビットカード)をプレゼントしたとかいう話があるぐらいで、まさに文字通り「数億円なんてガキの小遣いにしかならねえ」という世界。
勝てばそれだけの役得があり、負けたら命も危ない・・・となれば人間必死になります。
一個一個の事件や誰それが何派でこの時に失脚したみたいな話を追っていくのは、中国に詳しくない人にとっては結構シンドいことですが、福島さんの本は非常に「俯瞰の見通し」が通史的に見えやすいので、読めば「習近平がなぜ突然トップに立ったのか」がわかります。
物凄く単純化すると、中国には3つの派閥があるようです。
・太子党(共産党の元勲の息子たち・・・現国家主席の習近平氏はコレ)
・共青団(共産党青年団という共産党の若手抜擢のためのエリート組織。前国家主席の胡錦濤氏はコレ)
・上海閥(上記二者とは距離がある上海地盤の利権集団。前前国家主席の江沢民氏はコレ)
勿論この人は上海関係だけど太子党でもあるとか、色々境界は重なっているし個人個人で色はあるわけですが、ざっくり言うと「太子党」が「毛沢東と一緒に革命に参加した両親の息子」であることをベースとして、「世襲」的な感覚で地位を保持しているのに対して、共青団派は別にイイトコの出身じゃないけど勉強ができたり色々優秀だったりという感じで取り立てられたエリート官僚集団なわけですね。上海閥は、少し「政治」とは距離を置いてとにかく利権を固めてカネ儲けたい人たち・・・という感じ?
この三派の権力争いの詳細は、福島さんのの本を読んでもらうとして、予備知識がないあなたでも、この3派のキャラクターから言って、「アメリカ含めた国際社会」と「うまくやれそう」なのはどれだと思いますか?
まず、一番難しそうなのが「太子党」ですよね。「世襲貴族たち」はいかにも「グローバル」と相性が悪そうです。
一方、「カネカネカネ、カネだけが満足感よォ!」の上海閥と「グローバル」は、ある意味結構仲良くやれそうな感じがしますね?儲かりゃいいんだよぉ、細けえこたぁいいんだよぉ・・・で通じる範囲ではうまくやれそうです。
また、「お勉強ができて取り立てられてきたエリート官僚」さんたちは、いかにも「話がわかる」感じがします。こちらも、それなりに「グローバル」と相性が良さそうです。
実際、上海閥の江沢民時代、共青団の胡錦濤時代、中国は今ほど国際的に強硬ではなかったですし、米中関係もかなり良好な時期が多かったです。
一方、2013年に太子党の習近平になってから、政治・経済において強硬な路線を推し進めた結果、アメリカとの対立が決定的になり、今やかなり四面楚歌な状況になってきているところがあります。
詳細は福島さんの本を読んで欲しいのですが、それまで無名だった習近平がいきなり主席に選ばれたのは、共青団派と上海閥との間の権力闘争が激しくて、お互い自派のエースを後継者に推すことが難しくなった結果、上海閥とも少し関係があり、それほど「野心家」とは思われていなかった習近平に、「まああいつならうまく操れるだろう」ぐらいな感じでお鉢が回ってきたそうです。
つまり、共青団と上海閥の間の争いの間のエアポケットに転がり込んで、漁夫の利を得た形でトップに立ったわけですね。
しかし、その後習近平はなりふり構わぬ権力闘争をしかけ、あるレベル以上に出世した共産党幹部は訴追されないという前例を破ってバンバン上海閥の有力者を摘発、一時は盤石の独裁政権を形成するのか?という状況にもなりつつあったようです。
この、「強引な権力掌握の闘争」の結果が、先ほど書いた米中関係の潮目の変化に繋がってくるんですね。それが「A 経済」「B 国家」だけでなく「C 権力闘争」の視点を導入することで見えてくる景色です。
状況をまとめると以下の絵のようになります。
習近平のなりふり構わない権力闘争によって、追い詰められた政敵が、「アメリカを抱き込んで習近平政権に対抗しようとしている」状況になりつつある・・・・そうです。
先ほど書いたように、太子党の習近平に追いつめられつつある上海閥にしろ共青団にしろ、本来「アメリカとの価値観共有」がそれほど難しくない集団です。
彼らが習近平の権力闘争で「汚職摘発」を名目にバンバン投獄されたり「なんだかよくわからないけど突然死んだらしい」というニュースが流れたり(怖い・・・)すると、春秋戦国時代から数千年の歴史を持つ政治謀略の国、孫子の兵法の国の人間はどうするか?
↓
答 アメリカに対して、「ヤクザな習近平より、俺らが中国のボスになった方が色々うまくいくぜとアピールする」
こうなります。
アメリカは”民主主義国家” ですから、中国側が一枚岩でまとまって、唸るチャイナマネーでロビー活動しまくっていれば、なかなか中国に対してキビシイ態度を取るような動きは政策化されていきません。
しかし、いざ習近平派がバンバン政敵を追い詰めていき、ある者は投獄され、ある者は消され、ある者は必死に外国に逃れ・・・となってくると、数千億円単位で蓄財してることも珍しくない中国の権力者のうちのある部分が、必死にアメリカを炊きつけるようになります。 (スパイっぽい話では、習近平政権側の隠したいスキャンダル情報なんかをアメリカ大使館に持ち込んで亡命したり、昔はアメリカはそういうのを受け付けなかったが最近は積極的に利用しようという態度だったり・・・ということもあるらしい)
その結果が、最近の「米中関係の変化」だし、その結果玉突き的に押し出されるように、日米・日韓・日中関係も、好転の兆しをそれぞれ見せ始めているというわけです。
なんか・・・経済と国家の話だけでは見えてこなかった「大きな連動性」が見えてきた感じが、しませんか?
実際に、今「習近平」がどれくらいの権力を持っているのか・・・は、色んなチャイナウォッチャーによって言うことがマチマチな状況です。
ただ言えるのは、(いわゆる”メタ分析”的な話ですが)たった半年前には習近平が盤石だという人の数はもっと多かった印象ですが、今はかなり「習近平危なくなってるんじゃないか」という人の数が増えてきた印象です。
中でも一番習近平にキビシイ見方としているのは”中国から帰化した日本人”の石平氏で、タイトルずばりの
こんな本を書いています。
この本はこのブログを書く直前に見つけてさっきキンドルで読んだんですが、大枠は同じですが状況認識が多少福島さんの本とは違うところもあるようです。
石平さんは、子供の頃近所のおばあさんが文化大革命の混乱で処刑されるのを見たり、北京大学を出たエリートでありながら日本留学中に天安門事件の報を聞いて帰国を断念し日本に帰化することを選んだり・・・というなかなか凄い経歴の方です。
国外に出てしまった事を除けばある意味で「共青団」に最も近い生い立ちと言えそうで、そういうところの心情的な結びつきが影響している部分もあるかもしれませんが、石平さんの見立てでは、かなり共青団派が実はかなり「根」を張っていて、今の経済混乱を習近平派に押し付けて、いずれ次のタイミングで一気に権力掌握を目指している状況にあるとか。(これがどれほど真実かはわかりませんが、このポジションに何人共青団派がいてまだ何歳だから何年後にはこういう席次のラインナップになる・・・というような分析はかなり説得力がありました。詳細は石平さんの本でどうぞ)
習近平は上海閥つぶしの時には共青団と協力したが、今度は矛先を共青団に向けたために、共青団派と上海閥とアメリカの「vs習近平」的協力関係が生まれてしまい、逆に追い込まれるようになった・・・という見方ですね。
なんか魏呉蜀と諸葛亮が昨日の敵は今日の友的に争う三国志の話をしているような感じですが、しかし「そのレベルの本能」がまざまざとダイナミックに動いているのが、世界第二位の経済大国の実情というわけなんですね。
では次は、「こういう状況分析」の上で、我々はどう彼らとつきあっていくべきなのか・・・を考えてみます。
3・「意識高くない系」の他人とのつきあい方について
これは色んなところで指摘されていますが、2013年に習近平が政権を取った時、かなり意識的に「日米関係の間を裂き、米国の影響力を東アジアから排除し、東アジアのことは東アジアが(つまり俺たち中国が)仕切る」政策を推し進めようとしたようです。
いわゆる「新型大国関係」というキャッチフレーズがありますが、これは「アジアのことはアジアが(つまり俺たち中国が)仕切るからアメリカは口出しすんな」をマイルドに言い換えた表現で、日本国内の「アメリカ嫌い」の人たちは好意的に解釈する人もいたようですが、実際に中国に軍事的に圧迫されている東南アジアの人たちとかは「マジでシャレにならん」という危機感を抱く結果になりました。
日本における安倍政権の日米関係重視の姿勢は、国内的にかなり不満を抱いている層もいるわけですが、彼の行動によって習近平の「日米離間の策」が失敗し、むしろ日米関係は強化され、アメリカは「新型大国関係」というあり方を明確に拒否する姿勢を示せる情勢になったことは、もっと高く評価しても良いように思います。
確かに安倍政権は”多少”強引なところがありますが、 もし、「アメリカが手を引いて中国が東アジアを仕切る」ことになったら・・・そこで実現する世界は「政権に圧力をかけられたとテレビで騒いで注目を集める」なんてことが可能なレベルの「政府の圧力」じゃないですからね。
ネットでその人の名前を検索するとハネつけられて何も情報が出てこなくなったり、突然逮捕されてよくわからない裁判にかけられて社会的に抹殺されたり、それどころかそういうヤツはいつの間にかよくわからない理由で行方不明になったり、「急死、病因は不明」とかいうニュースが流れたりしますよ!
いやいや、別に安倍政権を批判するなというわけではないんですが(我々は言論の自由の国に住んでいるので!)、こういうマクロに見た時の影響の連鎖を無視して、安倍政権の取った「手続きの瑕疵」だけを鬼の首を取ったように責めまくってると、なんか書類の形式だけにウルサいお役所の嫌な係官みたいな印象になってきて、だんだん「民心」が離れて行っちゃうから気をつけたほうがいいんじゃないかということです。
「この問題」について、アンチ安倍の人もちゃんと自分ごととして取り組んでくれないと、安倍政権側はかなり強硬になっても何とかポジションを守らざるを得なくなりますからね。
「民主主義を守る戦い」というのは、勿論役所の窓口で書類の不備を指摘しまくるような戦いも大事かもしれませんが、今まさに物凄い抑圧を広げようとする隣国に対してそれを抑止しようと立ち向かうことも含まれているはずです。
「対中国封じ込め」的な問題に対して一丸となって迎えるなら、良くない抑圧だって辞めようか・・・ともなれますし、日本が米軍と過剰に一体化することで良くない巻き込まれ方をすることをいかに防ぐか・・・だって知恵を出し合える情勢になるはずです。民主主義ってなんだ?これだ!ですよね。
・・・ともあれ、この記事全体で一番大事なことをまとめると、ここまで述べてきたように、
「中国内部における権力闘争」→「米中関係の潮目の変化」
があって、米国側から中国に対して多少厳し目の態度が出るようになってくると、
むしろ日中・日韓関係は改善に向かっている
ことに我々は注目するべきです。1行にまとめて書くと、
「中国内部における権力闘争」→「米中関係の潮目の変化」→「日中・日韓関係の改善」
こういう因果関係です。
数々の報道において、習近平政権は日本との関係改善を模索しているという話が出てきていますし、そうなると中国政府はあらゆるメディアを総動員して「あんま日本のこと批判すんな」という統制を始めますから、それを受け取る民衆側も「ああ、あんま日本のこと批判しないモードになったんやな今度は」となります。
今回の日韓関係の「最終的かつ不可逆な手打ち」も、明らかにこの流れの中にあることでしょう。
中国が「国際秩序を根底から覆してやるぜ!テメエら全員俺サマの言うことを聞けぇ!」ってなってる時は韓国は何千年の習い性みたいなのがあってそっちにどんどん吸い寄せられることになる。そうすると中国先生が日本と仲良くすんなって言ってるし、どこまでも非妥協的に日本を批判してやろう・・・となる。こういう「構造」がある時にどんだけ良識的な対話とかを頑張っても無理です。
一方で、中国が「国際秩序転覆どころちゃうでこれ、国内問題だけでかなりヤバくなってきてるんやけど・・・」となると、中国サマ頼りに日本や米国にケンカ売ってた韓国としては「親分そりゃないっスよ」ということになって、いつまでも全部日本が悪いってことにしてちゃいかんよな・・・という情勢になる。
「そういう状況になることで、はじめてイーブンに友好的関係を結べるようになる」
ってことはあるんですよね。これって、なんか「意識高いインテリ家庭」に育つとなかなか理解できない人間関係のアヤなんですけど。
ちょっと連想するんで書くんですが、スラムダンクという漫画に、試合中にぶつかったことを妙にペコペコ謝る敵選手がいて、それに対して主人公の桜木花道が、
「ぬ、謝るなよ、勝負じゃねえか」
というシーンがあって凄く印象的でした。私のように良識的で温和なインテリ家庭で育つと、なかなかこういう「爽やかな関係」を持てない。小学校の教室の友人関係でもなかなかこの「ノリ」が理解できなくて苦労した記憶があります。
あなたも、そういう人かもしれない。
むしろ、相手にちょっとでもぶつかってしまうと物凄い悪いことをした気分になるし、相手が言ってくることは全部聞かなくちゃいけないんじゃないかという気持ちになってしまうし、言い返したりしたら悪いなあ・・・となって、嫌なことでも飲み込んでしまったりする。そうしてるうちに相手の要求がどんどんエスカレートして、突然許容範囲を超えて「キレ」てしまったりする。あるいは自殺してしまったり。
この状況を「要求される側」から見ると相手は物凄い極悪人みたいな感じですけど、しかしこれは「要求する側」からすると、「取れるだけ取ってやれ!的に強欲に要求している」んじゃなくて、実は「要求される側」が何も嫌だという意思表示をしないから、「え?そんな嫌やったん?それやったらそうと言ってくれたらよかったのに!」ということも多かったりします。
あえて言うなら、「意識高くない系」同士の「意識高くない系に対するあるべきコミュニケーション作法」というのがあるんだということなんですよね。
ちょっとだけ最近はやってなかった自己紹介をすると、私は大学卒業後、マッキンゼーというアメリカのコンサルティング会社に入ったのですが、その「グローバリズム風に啓蒙的過ぎる仕切り方」と「”右傾化”といったような単語で一概に否定されてしまうような人々の感情」との間のギャップをなんとかしないといけないという思いから、「その両者をシナジーする一貫した戦略」について一貫して模索を続けてきました。
そのプロセスの中では、その「社会的にキレイな形」の外側にも実際に入って行かねばならないという思いから、物凄くブラックかつ、詐欺一歩手前の浄水器の訪問販売会社に潜入していたこともありますし、物流倉庫の肉体労働をしていたこともありますし、ホストクラブや、時には新興宗教団体に潜入してフィールドワークをしていたこともあります。(なんでそんなアホなことをしようとしたのかは話すと長くなるので詳細はコチラをどうぞ。)
で、その「ブラックな訪問販売会社」にいた時に、周りにいるめちゃくちゃ「意識高くない系」のヤンキー社員に凄い紳士的な態度で接してたらかなり「イジメ」っぽいことしてきたんですよね。
最初は、「右の頬を打たれたら左の頬を」の精神で接してたんですけど、なんかエスカレートしてくるし、そのうち私の携帯を盗んで登録してある女の子の名前の番号に片端からイタ電したりして、それでほんと「やっていいことと悪いことあるやろ!」みたいなことでキレてみせたことがあるんですよ。
ちょっとケンカみたいになって、言い合いになって・・・で、あーあ、この会社にいるうちぐらいは仲良く普通に波風立たずにやっていきたかったのになあ・・・と思ってたんですけど、次の日から妙に「仲間扱い」されるようになったんですよね。
「倉本くん、この前はゴメン」
とかトイレで小の用を足してる時にとなりに来てボソッと言って、辛気臭い話はそこで終わり。後はその話は一切しないという暗黙の了解!みたいな感じ。
小学生男子か!って感じですが、私は小学生男子のころこんなコミュニケーションは苦手な人間だったから逆に衝撃的でした。
こういう「意識高くない系ならではのコミュニケーション」ってのがあるんだな!という体験だった。
意地悪くいうと、「こっちからちゃんと拒否しないと舐められて敵はつけあがるんだ!」って話かもしれませんが、でも実際はそれほど「極悪」な感じのことじゃないんですよねこれは。
「相手側からちゃんとフィードバックが帰ってこないと、人間と話してる気がしない」
みたいな感じなんですよ彼らは。
相手が文句を言い返してくるところまでこっちから押し込んでみないと、「ちゃんと人間関係ができた気になれない」というような感じ
なんですね。
相手を慮って気を使って要求してみないのは「水臭い」というぐらいの感覚
なんですよ。
だから、押して来たらこっちからもちゃんとガッと押し返してあげて、「お、やるやん」「ふん、押してくんなバーカ」的に付き合ってあげる必要がある。
だから、今後国際社会は、中国に対して「対中国包囲網」的なものは、ヘンな嘘くさいお題目にごまかされずにちゃんとかけていくべきなんですよね。
で、物凄く重要なことを言いますが、これは、習近平サンにとっても本質的にはありがたいことなんですよ。
と、言うのも、「国際社会という敵」がガンと強い態度で出てきたら、国内的にも「多少妥協してもまあしゃあないな」というテイになるからなんですよね。
もし「国際社会という敵」が弱腰だと、習近平側としてもそこで「妥協」したら国内から「弱腰!」と批判されて失脚する可能性だってある。失脚したら命も危ないぐらいの状況に彼はいるわけですからね。
ヒトラーが、領土拡大を始める最初期のミュンヘン会談の時点で列強が強い態度に出ていれば、あの時期はまだ軍備が不十分だったし野望を諦めざるを得なかっただろうとヒトラー自身が言ってる話は有名ですけど。
万引き犯がたまに「万引きしやすいとこに商品置いておくのが悪い!」って言う時ありますけど、それと同じで「国際社会の秩序を転覆出来そう」という「シグナル」が中国国内に届いてると、「習近平はなんでやらないんだ」という話になってしまうんですよね。
むしろ、「習近平物語」の中で、
「そりゃあこんな強敵が一丸となって対抗してきたんなら妥協もしゃあないよな。でも俺ら結構頑張ったやん?上出来やで!」
と思える状況が作れるかどうかが重要。 ある意味で、それを本質的に最も望んでいるのは「習近平氏本人と中国人」だったりするはずです。
その上で、中国国内の、「俺らの方が国際社会と上手くやれるぜ」というアピールをする勢力と、ちゃんと話し合って関係を結んでいくことです。
日本のネット右翼サン的には、中国がどこかで派手に転んで爆発炎上したりしたら「ざまぁwwww」的に爽快かもしれませんが、そんなことになったらその後の混乱はハッキリ言って彼らだけの問題じゃありません。東アジア全体どころか、世界全体、人類全体を巻き込む惨事となるでしょう。
たまに日本にいる、アメリカ憎し、日本政府憎しゆえに中国を物凄い聖人君子みたいに扱って煽りまくる人も困りますが、逆に全く根底的にどうしようもない極悪人扱いして相手を正しく観察しない人も困ります。
すでに日本の倍以上の巨大な経済となって力を持った十数億人がすぐそこに厳然としているわけですから、「ぶっつぶれちまえ」で終われる話ではない。
むしろ、習近平と、アンチ習近平派と、アメリカと・・・それぞれの思惑をちゃんと見た上で、「ちゃんと落とし所をみんなで探してやる姿勢」が、今後物凄く大事になってくるでしょう。
そういう視点の入り口として、福島さんの本、凄い良かったので、ぜひどうぞ。
・
また、そうやって「中国(もっと言えばイスラム国などを含む現代の秩序の外側にいる勢力)」と、「透明化しすぎるグローバリズム」が押し合いへし合いをする中でこそ、人類は本当に「現地現物の事情までちゃんと行き届いた、しかしちゃんと人類で共有できる普遍性あるシステム」を作り上げることができるでしょう。
イスラム国の支配地域にいる多くの人だって、中国人だって、今の「良識的な国際秩序」を全拒否にしたいはほとんどいないはずです。
これは今作ってる本の挿絵ですが、グローバルなシステムというのはカレーのルゥみたいなもので、ちゃんと丁寧に溶かさずゴソッと入れちゃうと、塊のまま食べることになって大変なことになります。その「反発」こそが中国の強硬姿勢やイスラム国なのだと思いましょう。
でも彼らはカレーを食べたくないわけじゃない。単なる野菜と肉の煮物にしたいわけじゃない。ちゃんと溶けてなくてゴソッとルゥが残ってたりするから嫌だと言ってるわけです。
押し合いへし合いの中で、ちゃんと「落とし所」を探っていけば、丁寧にルゥを溶かした美味しいカレーを人類が共有できるようになります。
その時には、
「あの時ほんまお前ムチャクチャするヤツやなと思って見放しかけたわ!」
「まあ、そんな昔のこといつまでも言うなって!」
的な友好関係が、やっと本当に結べる社会になるでしょう。
現代のあらゆる問題は、それぐらいのレベルで「メタ」に解釈しなおす必要があります。
そうやって「あらゆる対立を止揚していく」日本の可能性と、それをどう発展に結びつけるかという言論活動を私はやってきていますので、
「A 経済」 の話としては、
「B 政治」 の話としては、
日本がアメリカに勝つ方法: 日本経済、大反撃のシナリオ (犀の教室) | 倉本圭造
そしてCの「それを超えたナマの世界」の話は、次に出る本を期待してお待ちください。
倉本圭造
経済思想家・経営コンサルタント
・公式ウェブサイト
・ツイッター
(当記事の絵や図は、ネットでの再利用自由です。議論のネタにしていただければと思います)