高市氏の支持者が「不平士族化」して「西南戦争」にならないようにしてほしい

1●高市早苗政調会長案は「冷や飯人事」か?

「岸田内閣」人事が次々と発表になっています。

なかでも「高市早苗政調会長案」 について、高市氏の支持者の間で激論が起きているのを見ました。

これは「高市氏」を有名無実な職に固定して冷や飯を食わせる案だ・・・という人もいれば、むしろ「具体的な政策を積み重ねるのが得意な高市氏にとって適材適所な案ではないか」という人もいる。

私は結構「良い案」というか、高市さんの持ち味を活かせる案ではないかと考えています。

確かに高市さんは既に2012年に女性初でこの役職についており、支持者からすれば

「またぁ?もっと派手な役職にならないの?」

という気持ちはわかる。

「高市支持派」からすれば外務大臣や財務大臣といった派手な役割について、「中国や財務省」といった「敵」を「華麗にやっつける」役割を期待しているところがあったのだと思います。

しかし、私が個人的に「高市氏政調会長案」に賛成なのは、外務大臣とか財務大臣とか、ましてや官房長官などよりも、

「遊軍的に好きにやれる役職」であり、高市さんの持ち味を活かしやすい

と思うからです。

外務大臣にしろ財務大臣にしろ、その分野における個別的な問題を積み重ねた組織の事情があるし、そして「政権」の意向というものもあるために、高市さんが個人でそこにスポッとハマったからといってやれることは限られています。

それと同時に、子育て政策から軍事外交、財政にいたるまで縦横無尽に細部まで持論を持っている高市さんの能力を、「一つの部門のミクロな課題」だけに縛り付けてしまうことはもったいないと感じます。

そして、「過去に既にやったし、その時にできたことは限定的だった」からといって、「今の高市さん」がそれをやることの意味はまた別にあるはずなんですね。

政調会長のような「遊軍的」なポジションは、それを担う人によって全然違う意味を持ち得る役職なはずなんですよ。

毒にも薬にもならない人を名誉職的につけておいても、まあ普通に仕事がまわるという感じではある。実際、スガ政権の政調会長って誰だっけ?ってなっても名前が出せない人が多いと思います。

一方で、今回の総裁選を経て人々の期待を吸い込んだ「今の」高市さんのような人が政調会長につけば、その立場を利用していろいろなことができる・・・という構造でもあるはずなんですよね。

外務大臣や財務大臣や官房長官のような「目立つ」役割とは違って地味かもしれない。

しかし、今回私が「最右翼層限定のアイドル的存在」だと思っていたら会見を見て全然違うと気づいた・・・みたいな話があるように、ちゃんと政策の細部まで自分なりに精通して細かい政策を通していけるのが高市さんの有能さのコアにある部分なわけですよね。

「ヒラの議員の手弁当の議員立法」ならできないことが、「政調会長高市早苗」の主導で公的な組織を動かしてやるのならできる

っていうことは十分ありえる。

そういう意味で、2012年の段階で高市さんが政調会長になったのは全く次元の違う「働き方」ができる、非常に「適材適所」な案だと私は考えています。

思う存分の働きをしてくれたら、より広い範囲に「高市さんって凄い!」という印象は広がり、さらに「女性初の総理大臣」への道は広がるでしょう。

2●岸田政権との協力関係は「保守派の悲願」実現の為にも有効である

私がお願いしたいことは、高市支持者を先導してきた「保守系インフルエンサー」の人たちや多くのSNSにおける保守系アカウントの人たちが、その「高市氏の見た目上の地味な処遇」に対して怒るあまり、さらに焚き付けて「岸田政権を倒せ」という方向に吹き上がってしまわないように、しっかりと手綱をコントロールしてほしいということです。

そういう動きは、「日本の保守派の悲願」的な問題をちゃんと解決していくにあたっても良い結果を生まない可能性が高いと思っています。

私が今回、リベラル寄りの自分からは絶対対象外だと思っていた高市さんの意外な有能感に驚いて、たとえば以下の記事のように

高市早苗氏は「極右のアイドル」にすぎないと思っていたが、出ている右翼系動画をいくつか見たら考えが変わった話。

ブロゴスで「高市氏支持」の記事を連投してかなり読まれたのは、

「尊王攘夷運動が開国政府を作った」

的なパターンで動かしていくことが、非欧米文化をベースに持つ日本が果てしなく流動化する国際社会の中で自分たちのコアの共有軸を打ち立てていくには重要だと考えていたからです。

結果として岸田政権が誕生する事になったわけですが、それは以下の記事↓で書いたように、

「岸田総理(宏池会エリート主義)」と「河野家的ヤクザ主義」の因縁の戦いは、日本国の方向を決める大きな分水嶺 

「高市氏のコア支持層」の願いも、ちゃんと間接的に具現化しやすい情勢ではあるはずなんですよ。上記記事からちょっと長めに引用しますが・・・

>>>(上記記事より引用)

宏池会(岸田派)は首相を出した人数は少ないですが、サンフランシスコ講和条約を締結して「東西冷戦の中での日本のポジション」を確定させた吉田茂を源流に持ち、そして高度経済成長を主導した池田勇人など、「経済大国日本」を作る一番重要な意思決定はほとんどすべて彼らが行ったといっても過言ではありません。

しかしなぜその後長らく権勢を失っていたかというと、「あまりにインテリすぎ」るキャラクターが日本社会というリアリティをすみずみまで扱いづらくしていたところがある。

特に東アジアの勢力争い的なリアリティの中で、河野家系ほど明確に”反・中央集権”を取るわけではないにしろ、染み付いた「中立しぐさ」的な部分が弱腰だと捉えられかねない情勢が続いていた。

今も高市氏を支持するような保守派から見れば「岸田は頼りないぞ!」というふうに見えるのもわからないでもない。

しかし、今や米中冷戦がたけなわで、日本が主導した「自由で開かれたインド太平洋」戦略の結果として、欧米諸国の空母が揃い踏みで対中封じ込めに動けるような情勢になっている事を考えると、

・単に一国のナショナリズムの延長としての対中強硬

ではなく

・国際情勢との連動の中での自分たちの立場を高めていく方式による東アジアの主導権争いでの優位性追求

ができる情勢になっている。

以下の記事

アフガン情勢は「アメリカ衰亡の象徴」ではなく「中国の野望を封じ込める好機」を示している

で詳しく書きましたが、これは20世紀の日中戦争の時に中国に「してやられた」作戦を明確にやり返すことができた戦略的勝利の結果であり、それによって

「宏池会的国際協調が、東アジアにおける主導権争いという国益追求と無矛盾に合致できる情勢になった」

ことが、今回「宏池会主導」に政権がまとまる結果になっためぐり合わせの背後にあると私は考えています。

<<<(引用終わり)

3●保守派インフルエンサーは「西南戦争」にならないようにうまく手綱を操ってほしい

要するに、いま「岸田総理が誕生した意味」というのは、高市氏を支持する保守派としても、「良い流れ」に持っていける可能性が十分あるわけですね。

もちろん、「高市総理」になって完全に主導権を握った時よりも不自由なことは増えるでしょう。色々と意に沿わない方向もゼロではないと思います。

しかしここで「岸田じゃダメだ!」と完全に岸田おろしの方向になってしまうと、それは結局「保守派の願い」を安定的に吸い上げてくれる政権の維持を難しくしてしまうんですよね。

これは例えるなら、「尊王攘夷運動が開国政府を作った」までは良かったが、結果としてできた明治維新政府の行いを、「幕末維新志士の純粋志向」ゆえに潔癖主義的に許せなくなって西南戦争を起こしてしまった薩摩武士の人たち・・・みたいになってしまいかねない。

むしろ「政権の内側」に自分たちの声を届けられるプレイヤーがちゃんと席を占めたのだから、「内側から変えていく」事が大事なのだ・・・という方向に動かしてほしいと思っています。

もちろん、「批判」し、「こっちに進むべきだ」という意見を言い、議論によって方向を変えていこうとすることはとても大事なことなんですよ。

ただそれが、「完全に純粋かつ潔癖主義的に自分たちの意見が受けいられないならそんな政権は壊してやる」という方向に暴走してしまうことだけは、「愛国心から」自制してほしいんですよね。

「保守派インフルエンサー」の人たちもそうだし、SNSで意見表明をされている草の根「高市支持者」のみなさんも、ぜひこの「西南戦争になっちゃうかどうかの瀬戸際」なのだと思って、ぜひ、

「高市派と岸田政権では考えが違う部分もあるが、岸田総理でできる連携を自分たちは考えるぞ」

という方向で色々と考えていってくれたらと思っています。

(同じことは河野氏支持の、とくに”ビジネス右派”的な改革派の人にとって、調整型の岸田氏に対する不満にも同じことが言えるのですが、それについてはまた別の記事で書きます。)

4●「同じ日本国民が敵味方同士に分かれて罵り合う時代」は終わりにしよう。

「岸田総理(宏池会エリート主義)」と「河野家的ヤクザ主義」の因縁の戦いは、日本国の方向を決める大きな分水嶺 

この記事↑で詳しく述べましたが、とにかく「自分たちvs敵のあいつら」を設定して「ぶっ壊せ!」という「平成時代のモード」を乗り越えるのが「岸田政権」の乗り越えるべき課題なんですよ。

そのためには、「平成時代の最初」とは全然状況が違うのだ、ということを自覚する必要があると思っています。

もしあなたが、「朝日新聞的パヨク」が許せない保守派だとして、状況は「平成初期」とは変わっていて、今や対中強硬路線は「日本国内の保守派だけの孤立無援の政策」ではなく「欧米含めた世界の自由主義陣営全体の総意」になりつつあるわけです。

「孤立無援」だと思っていた時に必死に身に着けた態度とは違う「思いもしなかった味方との連携」が必要な時代なんですよ。

あるいはもしあなたが、日本の「既得権益層の岩盤的抵抗」ゆえに何も前向きなことができないと不満に思う「ビジネス右派」的な人物だとして、こちらも状況は「平成初期」とはかなり違っているんですよね。

「昭和末期〜平成初期の日本の組織」っていうのは本当に「縦割りで自分たちの利益しか見えない」感じでしたけど、今の若い世代の官僚なりなんなりは、もっと「マトモな理屈を通してくれるなら縦割りを超えて連携できる文化」が育ちつつあるわけです。

「ぶっ壊すぶっ壊す!」って30年いい続けて結局全力で反撃されて変わらなかったわけで、「ビジネス右派」の人も「あと一歩の双方向性」を考えてもいい時代になっているはずです。

「河野氏的豪腕による改革」に期待していた「ビジネス右派」タイプの人も、「岸田政権」的な中庸の場に繋ぎ止めて、その「中」で変えていくことに意味がある時代になっているんですよ。

河野氏的豪腕が、ワクチン接種推進において重要だったのは間違いありません。

しかし、ワクチン接種なら「拙速は巧遅に勝る」でいいけれども、エネルギー政策がそれだと本当に国が沈む危機になりますよね。

自然エネルギー関係者からすら安定供給に危機感を感じられる情勢になってしまい、昨年の冬も今年の冬も大停電の危機になっていながら普通の人はだれも知らないし、結局東電みたいな古い企業が尻拭いをする…みたいなギクシャクした関係は終わらせなくてはいけません。

何度も最近述べていることですが、私のコンサルクライアントのある企業で、10年で平均給与を150万円も引き上げられた例があるんですが、そういう「改革」は、「都会のめぐまれた上澄み階層」まで浸透させつつやるには、「平成時代の”抵抗勢力をぶっ壊せ型”の改革」よりも「あち一歩の双方向性」が必要なんですよね。

「あと一歩の双方向性」を身に着けて、「岸田政権という場」の中で具体的に起こしていくからこそ、

・「保守派の悲願」が延々と「反日勢力」に邪魔され続ける

・ビジネス右派の悲願が延々と「抵抗勢力」に邪魔され続ける

みたいなことがない

「本当の改革」をやりきる道

…につながるのだと私は考えています。そしてその中では、「保守派」も「ビジネス右派」も、同じ日本という国への思いを共有する者であれば自分たちの思いを十分に活かしていける道も見えてくるでしょう。

もちろん、「保守派インフルエンサー」の人も、「ビジネス右派型インフルエンサー」の人も、そして日本のSNSで政治談義をするあらゆる人々にとって、「岸田政権という折衷案」に不満に思う部分はゼロではないでしょう。

しかしここで、

「共有できる軸」ごとぶっ壊してしまおうとせずに、「あと一歩」だけ踏み込んで、ぜひ「党派的な争い事」に熱中することなく、着実にこの国をよくする方向へ

議論を進めていっていだければと思います。

その先に、私が最近の記事で何度も述べているように、

「20世紀冷戦の昭和時代末期にあった日本の”世界一の繁栄”のボーナスタイム」を、米中冷戦の今後の時期にも同じように引き寄せられる道

は必ずありますよ!

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倉本圭造
経済思想家・経営コンサルタント
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