これからの時代のマスコミは、「批判」でなく「率先した問題解決のリード」まで踏み込むべき(”望月衣塑子型陰謀論”を超えて)

1● 政府の施策が困窮者に伝わっていないのはマスコミのせいではない・・・でいいのか?

ここ数日SNSで、

「コロナ関係での政府の支援策の情報が必要なところにちゃんと届いていないのは、マスコミが周知に協力しないからではないか」

という批判が大量にシェアされていました。

ある朝日新聞社員がツイッターで、「新聞は政府の広報誌じゃないんだよ!権力を批判することだけが専門なんだ!」的なことを言って、それに批判が殺到した・・・というような話のようでした。

断片的にそのツイートが流れてきた時には「おいおい、そうはいっても伝えるのをまずちゃんとやれよ(怒)」と思ったんですが、今この記事を書くためにその記者さんご本人のツイートを見に行くと、

↑確かにこのツイートは批判されても仕方がないように思いますが、その後批判を受けて結構すぐに

 


↑このように謝罪ツイートをしており、全くもって「全く話の通じない”自己目的化した反権力”的なタイプの記者さん」というわけでもないように思います。

この方は1999年入社だそうで、おそらく私とだいたい同世代の今40代半ばごろだと思うのですが、個人的な感覚としては、今の30ー50代ぐらいの中堅社員の新聞記者の多くは、もっと上の団塊の世代の記者がSNSでやたらイデオロギーに凝り固まった放言を繰り返しているイメージとは違う柔軟な部分を持っているように思います。

あまりにイデオロギー的な放言を繰り返す団塊の世代の新聞記者のイメージが強すぎて、「新聞記者という存在に対する信頼感が消滅した」みたいなコメントをSNSで良く見ますが、私はむしろ、30−50代ぐらいでちゃんと専門分野を(特に海外特派員的なタイプの)持って地道に取材をしている記者さんのアカウントをたくさんフォローしていますし、「あらゆることがイデオロギーでしか見れない病」に陥りがちな現代において、現地発のリアルな事情を伝えてくれる貴重な存在だと信頼しています。

とにかく「てやんでぇバーロー的に政府に中指を突きつけて溜飲を下げること自体が提供価値」みたいな「団塊の世代的なメディア像」が機能不全に陥る中、たぶんこの内藤氏も含めて、今新しい「メディアはどうあるべきか」を模索しようと思っている人が、メディアの「中の人」にも多くいるはずで。

この記事を読んでいる読者のあなたはむしろそういう「自己目的化した反権力」的なメディア像に対して「マスゴミ」的に反発したい人の方かもしれませんが、そういうあなたにとっても、

むしろメディア内部の「自分たちだって今のままでいいとは思っていない」という層にはたらきかけて、何らかの新しい方向性を見出す流れになることは、色々と機能不全気味な混乱が続いているこの国にとっても、そして「メディアの中の人」にとっても重要な「今やるべきこと」ではないか

と思っています。

2●「望月衣塑子型陰謀論」を超えて

たとえば、政府の支援策がちゃんと周知されていなくて使われていない、ちゃんと必要とする人のところに届いていない・・・とする。

そこで

「日本政府っていうのは人民の生活のことなんてこれっぽっちも考えない腐った政府なんだ!」

みたいな「突然謎の文明論」的なことをメディアにやられても困るわけじゃないですか。それで溜飲を下げたい人がいるかもしれないけど、それを「主流メディア」にやられても、ソコから先具体的な改善に進みようがない。

そんなことしてるメディアあるか?って言うかもしれないけど、ちょっと名前だして悪いですが望月衣塑子さんのこういうの↓



・・とかが実質的にはそういう「突然謎の文明論」みたいな感じなんですよ。

これ、日本の飲食店休業支援は「1日6万円」で、月30日なら180万円なわけで、ツイート中のイギリスの126万円よりむしろ断然多いぐらいだろ…という「明らかに間違っている」ツイートで話題になっていたので見かけたのですが。

そういう「単純な計算間違い」の話だけじゃなくて、ドイツの内容と比べても日本の飲食店の時短営業協力金は全然劣っておらずむしろ対象によっては十分すぎるほどで、多くの小規模飲食店において普段の売上を補って余りある金額になっている試算も出されているぐらいなわけです。(勿論いろいろと改善できる方向性はいくらでもあるでしょうから、完璧だと言っているわけではありません)

ただ、日本のコロナ対策財政支援は国際比較してもそれほど小さくなく、むしろ倒産が普段よりも減ったぐらいの手厚さを出しているわけですよ。

…にも関わらず、というかそもそもそれ以前の単純な計算間違いのことも指摘されまくっているのに上記ツイートをそのまま放っておいているあたり、これはもう「アメリカ大統領選挙で勝ったのはトランプ」と吹聴しているアカウントと変わらないレベルの陰謀論と言っていいんじゃないでしょうか?

本来メディアにやってほしいことは、

1 もちろんまずは政府が発表した「今の対策」をちゃんと過不足なく人々に知らせることを「角度をつける」前にちゃんとやった上で・・・

2 今の制度のどこに不備があるのか?対象が間違っているのか?周知が足りていないのか?金額が足りないのか?手続きが複雑すぎるのか?・・・といったことをちゃんと具体的に取材して考える

ということであるはずです。


3●批判でなく一緒に問題解決を考えるメディアであってほしい

要するに、

批判でなく一緒に問題解決を考えるメディアであってほしい

っていうことなんですよね。

とりあえず日本政府なりにかなり大盤振る舞い的な対策を打っている中で、さっきの「望月衣塑子型陰謀論」みたいなので盛り上がられると、そもそも事実認識が全然間違っているので、「その先の具体的な話」に進みようがなくなるわけですよね。

「どーせ自民党の奴らなんてよぉー!自分たちのことしか考えてねんだよなー!」

「そうだそうだー!」

みたいなのが「メディアの使命」と思われてしまうと、マトモな対話が成り立たないじゃないですか。

でも、さっきの朝日新聞記者の内藤氏のツイートみたいなのをズラッと読んでいくと、「すべてがイデオロギー闘争に見える病気」の団塊の世代的なメディア像に違和感を持って、何か新しいタイプの、今の時代に必要なアクションを起こしたいという気持ちは凄いあるように私は感じます。

もしあなたが「マスゴミ」に批判的な人だとしても、そういうあなたにとっては「離間の計」というか、むしろ「あなたにとっての敵」である「マスゴミ」の内部分裂を誘発して、「ちゃんと対話可能な中堅世代メディア人」に、「自己目的化した反権力」的な上層部からメディアのコントロールを奪うようにけしかけていく・・・という戦略は悪いものではないはずです。

・・・ってこういうことを書くと、

「そんなマトモなマスコミなんか、どっかにあるか?俺は見たことないぞ!お前の脳内お花畑か?」

みたいなことをネットで言われるんですが(笑)

4●たとえば病院リソースの振り分け問題について

たとえば!っていうほんの一例ですけど、最近のコロナ関係に関するメディアは随分と「進歩」したなあ、という感じがしています。単に無責任に煽りまくるだけだった一年前とは明らかに違うと感じる。

例えば病院リソースの振り分けを工夫して医療崩壊を回避しようみたいな話について。

「民間病院で診てないところがたくさんあるんだから崩壊するわけ無いじゃんバーカ、医師会のエゴなんだよ!」

みたいな陰謀論が昨年末は溢れていましたが、年が明けたごろから色々と細部の具体的な話をちゃんと取材してニュースでやる例が急に増えました。

・地域全体で連携してコロナを診る病院とコロナを診ない病院を振り分け、対応できるスタッフを一箇所に集めてキャパシティを増やす

・回復期の患者がいつまでも重症患者用の設備を埋め続けないように退院基準を緩和し、「回復期患者を専門に診る病院」を作ると良い

…といった「具体的な方法」がちゃんとテレビのニュースで共有されるようになっていった。まだまだ足りないところはあるでしょうけど、そこでコロナ対応した病院への政府の経済的支援はどうあるべきか?みたいな細部まで色々と深堀りされてきている。

日本という国は、「縦割りの今ある組織図」を超えたような連携をするには「風潮」とか「気運」のレベルで方向性が共有されないと絶対できないんですよ。

そりゃ神様みたいなトップがいればできるかもしれないけど、でも「気運」が育ってない時にトップダウンでやったらどうせマスコミが焚き付けて全部潰しにかかるじゃないですか。

今の30−50代ぐらいの中堅メディア人の中で優秀な人は「そこまで踏み込む」だけの力が十分あるし、むしろそうありたい、あらねばならない・・・という気運は徐々に高まっていると思います。

5●「望月衣塑子型陰謀論」と「国粋主義的気分」は同じ穴のムジナ

このコロナ関係について最近まとめた記事が今結構読まれているんですが、その中で使った図を引用すると、




こんな感じで、「追及」の時点で現実の細部をちゃんと捉えられていないと、大混乱を避けるために「現場」側の当局者が過剰に保守的な見積もりに引きこもらざるを得なくなる事情があるんですよね。

その「現実が見えていない理想論の暴走」で大混乱になってしまうのを抑え込むために「過剰に国粋主義的」で、あらゆる進歩にケチをつけるような攻撃性もまた「フタ」として必要とされてしまっている息苦しさ・・・というのは、まさに「過去10年の日本全体を覆っていた機能不全そのもの」ではないでしょうか。

ここで、「新時代のメディア」は、「あと一歩」踏み込んでほしいわけですよね。

「政府を悪魔化して騒ぐ」前に、以下の「リアルな魔法の質問」を一回ちゃんとするようにしてほしいわけですよ。




こういうことをすることは

「メディアの使命」的な理想論から言っても決して魂を売るような所業というわけじゃなくて、むしろ「本当に今の時代の必然性に真摯に向き合うなら当然出てくる考え方」であるはず

だと私は考えています。

というか、こういうことをちゃんとメディアがやっていくことによってのみ、日本において「リベラル派」による再度の政権交代は可能になるはずなんですよね。

メディアのレベルが「望月衣塑子型陰謀論」で溢れていると、野党議員がいくらちゃんと真摯に現実と向き合って政策を考えて・・・ってやってもそういう部分が全然国民に伝わらないんで、結局スガ首相の支持率が落ちた落ちたって言っても野党の支持率がもっと地を這うレベルなんだからどうしようもない。

でも、「野党議員なんてなんでも反対!って言ってるだけの無能」って思っている人も多くいる時代ですけど、本当はそんなことないですよね?

私は経営コンサルタント業の傍ら、いろんな個人と「文通」しながら一緒に人生について考えるという仕事もしているんですが、数年前まである野党国会議員さんがクライアントにいて、深く話してみると凄い見識も深くて、いろんな政策課題についてちゃんと自分で調べて知っているし、それを実行に移す時の難しさについても理解している人だった。これまでやや否定的なものとしてあった「野党政治家」のイメージを根底的に覆されるような出会いでしたよ。

メディア側が「あと一歩」踏み込んで、政府側との「双方向の対話」がちゃんと動くようになれば、今とは全然違う「リベラル派側の長所」を日本社会のあちこちで導入していける情勢にもなりますよ。

6・権力とナアナアのお友達になれというのか?

こういうことを言うと、「権力とナアナアのお友達になれっていうのか!?」みたいな事を言われるんですけど、そういうことじゃないんですよ。

例えば以下のツイートは昨日たまたま見つけた、これも朝日新聞記者さん(この方は比較的イデオロギーファイタータイプの方だと承知していますが)のツイートですけど・・・ 

こうやってちゃんと「追及」するのは忖度なしにもっとやってくれていいというかやってくれなきゃ困るわけですよね。

でもスガ首相も、ここ最近、「ちゃんと謝るべきところで謝るし、答えるべきところで答える」ようになってきていると私は感じています。そりゃ”左翼的理想像”からはまだほど遠いかももしれませんが、少なくとも「謝ったら死ぬ病気」みたいなのはなくなってきている。

メディア側が、「望月衣塑子型陰謀論」で吹き上がっていると、「当局」側は一瞬もスキを見せられなくなるわけですよね。コイツらにスキを見せたら現実へのグリップが一瞬で吹き飛んじゃう・・・っていう危機感が生まれてしまうので。

そしたら結果として政府側も余計にやたら高圧的な態度を取るようになり、さらにそれを見てリベラル派は絶望を感じて…というこの「卵が先か鶏が先か」問題について、「敵側」のせいにしてないでお互い自分ごととして考えていかないといけない時代なんですよね。

オールドメディアでもウェブメディアでも、ここ最近私はちょっとずつこういう「変化」が起きているのを感じています。

コロナの危機も続きますし、

「望月衣塑子型陰謀論vs国粋主義的意固地さ」のハザマに落ち込んで機能不全が溜まりに溜まったこの国

を、

「ちゃんとマトモな理屈がさっさと通って現実問題に即応して対処していける国」

に変えていけるチャレンジを、ぜひとも実現していきましょう。

この記事は、先日アップされたファインダーズというウェブメディアの記事のダイジェスト版なので、面白いと思ったら本編もぜひどうぞ。

また、こういう「対話」の先に日本のコロナ対策を軌道に乗せるにはどういうことを考えるべきか・・・について書いた記事が、以下のようにかなり好評を頂いて読まれているので・・・


良かったら読んでいってください↓

コロナ対策を軌道に乗せるのは陰謀論との戦いそのものである。

感想やご意見などは、私のウェブサイトのメール投稿フォームからか、私のツイッターにどうぞ。

連載は不定期なので、更新情報は私のツイッターをフォローいただければと思います。

この連載の趣旨に興味を持たれた方は、コロナ以前に書いた本ではありますが、単なる極論同士の罵り合いに陥らず、「みんなで豊かになる」という大目標に向かって適切な社会運営・経済運営を行っていくにはどういうことを考える必要があるのか?という視点から書いた、「みんなで豊かになる社会はどうすれば実現するのか?」をお読みいただければと思います(Kindleアンリミテッド登録者は無料で読めます)。特に今回の連載記事の内容が「そのままもっと深く」書かれているといって良い本で、「経営コンサルタント」的な視点と、「思想家」的な大きな捉え返しを往復することで、無内容な「日本ダメ」VS「日本スゴイ」論的な罵り合いを超えるあたらしい視点を提示する本となっています。

また、記事中に少し書きましたが、私は老若男女色んな個人と「文通」をして人生を考える・・・という仕事もしており、これはいわゆる「サロン」じゃない一対一の文通なんでほんとビジネス的には無茶なんですが、最近やはりこれが自分が凄く楽しいこと、やりたいこと、ライフワークだな・・・と感じてきているので、もう少し宣伝してみようかと思っています。日本に住んでいる人も海外に住んでいる人も、都会の人も地方の人も、お金持ちもまあそうでない人も、普通のサラリーマンも政治家さんも若い学者さんも篤農家のおじさんもバブル世代のお姉さんもいます。興味があればこちらから。今を生きる色んなタイプの個人と友達になって色々と話せたらと思っています。


倉本圭造
経済思想家・経営コンサルタント
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